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海がつたえた思い

5月29日の「日本のうた」vol.5とそれに続く九州ツアーのためのリハを昨日したところ。
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photo by RYU

今回のテーマは「旅することば」と「海」。海をこえて旅する人たちがことばを伝える。そのことばは新しい世界の風景と人と物語とまざりあって、地球上で新しい物語を、うたを生む。大西洋のクレオールの島国カーボヴェルデで生まれた「SAIKO」は、そんな歌。

ほかにも今回は、戦前にミクロネシアで生まれた日本語のうたで、今は小笠原の民謡になっている「レモン林」(パラオでは「レモングラス」)。このうつくしくも切ないサウダージは、カーボヴェルデの歌となにもかわらない。日本とミクロネシアの両文化を持つ人たちのなかで生まれた、心をうつ太平洋のクレオールソング。

そして、ハワイの「ホレホレ節」。よく知られた話ではあるけれど、ハワイのサトウキビ農場で働く女性達のうた。そのときの現場監督はポルトガル人が多かった。ウクレレも、ポルトガルからきた楽器。ホレホレはハワイ語で刈り取られたサトウキビの葉を剥がす作業の意味。日系移民1世のひとびとは、故郷を遠く離れて、想像しがたい苦労のさなか、現地の彼らの間だけで共有できることばを生み、うたに紡いできたのだ。

それは、ブラジル移民の「穫り入れ行進曲」や「子牛の名前」もおなじ。なんだかちょっとかわった日本語のなかに、きれいごとじゃすませられない、地球の向こう側で生きていく必死さと喜び、悲しみ、彼らだけが共有しえた「ブラジルのなかの日本」を感じる。炭坑節は「宵のベランダの磨りガラス」ではじまり、「五木の子守唄」の歌詞は「憎いいくさはどがん衆がさすの、えらかお方がいいつける」。ブラジルの大地でこそ生まれた、日本語のうた。

バイーアのサルヴァドールがブラジル(ポルトガルの植民地としての)の首都となったのと同じ年、日本にキリスト教がつたわった。その頃、大西洋は大航海時代真っ盛り。イエズス会と商人は同じ船で、奴隷と黄金と聖書を積んで、大西洋を往復していた。自分たちの宗教を禁じられ洗礼を受けさせられた奴隷たちとその混血のこどもたちは、マリアに彼らの大地の母を見いだし、うたった。日本ではそれから300年の禁教と迫害を生き残った人たちが、観音にマリアを見いだし、うたった。伊王島にのこるマリアのうたに、大西洋のはるかな歴史と人々の思いがかさなる。

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海がつたえた思い。
大西洋の飛び石、カーボヴェルデのこの海は、そんな思いを受け止めてくれるように温かい色をしている。
by miomatsuda | 2013-05-10 20:14 | ◆日本のうた

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