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ポル語のおはなし

今日は、ポルトガル語のお話。
同じポルトガル語とはいっても、ポルトガル、ブラジル、アンゴラ、モザンビークなど国によって、ぜんぜん違って聴こえます。
ブラジル人がポルトガルに行って、発音がまったく聞き取れず、最初はとても苦労するようです。私ももし、ブラジルから先に行っていたら、きっと同じだったでしょう。
ブラジルに比べるとポルトガルはほんとに早口で、しかもシュの発音が強いし、口を閉じて話すので、聞き取りはとても難しいようです。どうやって言葉を覚えたの、とよく尋ねられますが、私はまずブラジル人コミュニティーでポルトガル語をいっぱい聴いたのが始まりで、それからポルトガルのテレビやファドから、ポルトガル式発音に慣れていきました。アマリア・ロドリゲスの特別番組のインタヴューを何度も聞き取りしていた覚えが・・。始めはほとんど「想像」です。初めてポルトガルに行ったときは、想像(解釈、というか)と聞き取りで、奇跡的に人が話していることが伝わってきました。ずっと聴いていると耳が慣れてくるもので、ある日、「あっ、すごい、私、この人たちが言っていることがわかる!!」とびっくりしたほどです。

独断に基いて言うと、ポルトガルでは、口は閉じ気味で、下降気味のイントネーションになります。母音もあまり強く発音せず、eとaの間の発音などが多くなります。(韓国の人は上達が早いかも・・)
まあ、それでも、日本語に比べると口はもう少し大きく開けるので、ファドを歌いすぎて、ある日口角から血がでたことがありました。ひいっ!口避け女!?と驚きましたが、どうやら日本語では使わない運動をしたからのようです。

ブラジルではそれよりももっと口をあけて話すようになります。口というか、口の奥をあけて話すので、もっと発音がはっきりわかりやすくなるし、リズミカルです。同じブラジルでも、州によって発音がものすごく変わり、南のほうは巻き舌で、まるでスペイン語のよう。そして、北にいくと、ポルトガル的になったりします。アマゾンなんかはインディオの言葉の影響で口は閉じ気味で詰め込んだように話すし、バイーアではものすごくリラックスした話し方です。(カエターノもそうでしょう!)だいたい、話しているとどこの人かわかってくるものです。ジョアン・リラなんかはノルデスチ(北東部)まるだしの発音でした。日本の方言と同じですね。

まあ、そんな発音の違いはあるにせよ、大西洋が間にあることでものすごい違いがでてきます。ポルトガルとブラジル。
ポルトガルで普通に「女の子」の意味のRapariga(ハパリーガ)はブラジルに行くと、なんと「娼婦」になってしまうんですねー。ああ、こわい。
そのほかいろいろなヤバイ言葉があるのですが、ちなみにアンゴラの美味しい郷土料理「muamba」(ムアンバ)は、ブラジルに行くと、「ヤミ市」となってしまうのです。闇市で手に入れたもの、闇市の人などを指します。ああ、なんてこと。
あと、ポルトガルでよく使う"Que giro"「ク・ジール」(発音はこんなかんじ)は、「なんてかわいい!」という意味ですが、これをブラジルで言うと、くすっと笑われます。ものすごくポルトガル的だからでしょう。ブラジルでは"Que bonitinho!coisinha fofa!"「キー・ボニチーンャ!コイズィーンャ・フォーファ!」などとおっきな口をあけて言いますね。

発音で言うと、定番句となりつつある"Saudade"ですが、これはポルトガルでは「サウダーッドゥ」(カタカナ表記にかなり無理がありますが・・・。)、ブラジルでは「サウダーヂ」、カーボヴェルデでは「ソダーッドゥ」となります。私は「サウダーデの歌姫」と呼んでいただいたりするのですが、発音で言うと、アンゴラが一番近くなります。いいんですが、べつに・・。ブラジル北東部ペルナンブーコ州やアラゴアス州なんかでは「サウダーディ」と言われます。どんな発音でも、言葉に出したときのなんともいえない郷愁の甘みは格別なのですが!

そのほか、文法的に言うと専門的になってしまうのですが、言い方が変わったり、丁寧な言葉も言い方が変わってくるのです。その最たるものが、「Voce」(ヴォセ)これは、ブラジルでは「あなた、君」という意味で誰に対しても使われますが、これ、ポルトガルでは丁寧語。普段は「Tu」(トゥ)を使うので、Voceというとほんとに、丁寧になってしまいます。自分の子供にVoceというのはまずおかしくなります。逆にブラジルではTuというと、知らない人に言うと失礼に当たる、ほんとに親しき間だけの呼び名。北東部では愛情を込めてTuを使いますが。
ブラジル音楽はポルトガル語圏の国々に多大な影響を与えていて、ポルトガルでもVoceをつかって歌われたりしますが、違和感を感じます。まあ、普段使わないし、ね。
カーボ・ヴェルデやギネ・ビサウのクレオール語では、Bo(ボ)を使います。これはVoceが短くなったものでしょう。
アンゴラやカーボ・ヴェルデではすごく母音の強い発音でポルトガル的なポルトガル語が話されます。訛りが強くて逆に愛着を感じるほど。アンゴラで使われている造語というのも面白いものです。Gozacao(冗談)とか。Gozarという動詞から来てるけれど、これはもうブラジルでは使えない!!
アルゼンチンでは、ポルトガル語の動詞がスペイン語でまったく違う意味に化けて、恥ずかしいこともありました。あぶないあぶない!

こんな状況なので、ポルトガル語を話すときは、話す相手の出身国によって、頭を切り替えるようにしています。でも、そんな器用なことはなかなかできないので、ポルトガル人からは「ブラジル人みたいに話すね」と言われ、リスボンに長居した後、ブラジルに行くと「ポルトガル訛りになったね」と言われます。なので、最近は「大西洋のポルトガル語なの」と答えるようになりました。
でも歌うときは、その国の発音を最大限にしようとしています。やっぱり、「ことば」がリズムを作るので。

ポルトガル語圏のことばの違い、とても面白いので、ぜひ音楽を聴き比べて違いを聞いてみてください!
by miomatsuda | 2008-02-02 23:56 | ◆日々雑感/Notes

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